『Black Radio』は、コンテンポラリーな気鋭ジャズ・ピアニストとして評価されるロバート・グラスパー(Robert Glasper)によるプロジェクト「ロバート・グラスパー・エクスペリメント」(Robert Glasper Experiment)のアルバム。2012年にリリースされた。
ロバート・グラスパー・エクスペリメントは2007年に始動したユニットで、グラスパー以下、ケイシー・ベンジャミン(サックス/フルート/ヴォコーダー)、クリス・デイヴ(ドラムス)、デリック・ホッジ(エレクトリック・ベース)という編成。
グラスパーは以前から各メンバーと個別に共演したことがあったが、モス・デフのステージで音楽監督を務めた際に4人が一堂に会し、そこでグループ結成のヒントを得た。ここでのグラスパーはアコースティック・ピアノとフェンダー・ローズを併用し、よりヒップホップ方面へも踏み込んだ演奏を披露。ケイシー・ベンジャミンのヴォコーダー使いも特徴で、生演奏のなかにエレクトロニックな雰囲気を持ち込んでいる。
そして、エクスペリメントでの初の単独アルバム『Black Radio』。これは同ユニットのアルバムであると同時に、多数のゲスト・アーティストとのコラボレーション集でもある。ゲストは過去のアルバムにも参加経験があるビラルとモス・デフのほか、エリカ・バドゥ、ルーペ・フィアスコ、ミュージック・ソウルチャイルド、レディシ、レイラ・ハサウェイ、クリセット・ミッシェル、シャフィーク・フセイン(サー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズ)、ストークリー・ウィリアムズ(ミント・コンディション)と、USのヒップホップ/R&Bを代表する錚々たる面々。ジャズ〜ソウルを含めてジャンルレスに活躍する重鎮ミシェル・ンデゲオチェロ、注目の新進ソウル・コーラス・グループであるキングも参加している。ビラルはグラスパーのニュー・スクール時代からの盟友で、彼を起点にヒップホップやR&B方面への人脈が開かれ、モス・デフの音楽監督を務めたのもそんな繋がりからだ。参加するゲストは、そうした共演を通じて交流を深めたグラスパーの音楽仲間である。
「ジャズではないけど、それぞれの世界の開拓者のような人だし、ジャズとは違う世界にいる人といっしょにやることによって、従来のジャズとはまた違う何かおもしろいことができるんじゃないかと思って作ったアルバムだよ」。ヒップホップもR&Bもロックも飲み込んだ『Black Radio』は、ジャズを基盤としながら、もはやそうしたジャンルを超えた新しい地平を見据えている。そして、グラスパーはこれをきっかけに、さらなる音楽の冒険旅行に出発しようとしている。
ジャズとヒップホップを自在に体現し、音楽シーンに旋風を巻き起こしてきたピアニスト、ロバート・グラスパー。本作は、多数のボーカリスト達の参加により完成させたプロジェクト盤であり、ジャズの枠に留まらず、ジャンル分けに意味を持たない事を感じさせてくれるアルバム。