『ロンリー・ハート』(90125)は、1983年に発表されたイギリスのロックバンド、イエス(Yes)のアルバム。それまでのプログレッシヴなサウンドとは打って変わり、ポップな作風となっている。ちなみに原題の「90125」という数字は、ただの発売当時のレコードの品番であり、深い意味はない模様。解散していたイエスの再結成アルバムとして話題となった。
このアルバム発表時のメンバーは、ジョン・アンダーソン(ヴォーカル)、クリス・スクワイア(ベース)、トレヴァー・ラビン(ヴォーカル、ギター)、アラン・ホワイト(ドラムス)、トニー・ケイ(キーボード)の5人。そして、プロデュースはトレヴァー・ホーンが手掛けている。但し、レコーディングにおいて、トニー・ケイはほとんど演奏に参加しておらず、スタジオ・ミュージシャンとして参加していたチャールズ・オリンズがキーボードのほとんどを弾いている。
イエスの代表作『こわれもの』(1972年)、『危機』(1972年)とは大きくサウンドが異なり、ポップでモダンなロックに仕上がっており、歌詞も複雑で抽象的なものではなくなっている。その象徴的な楽曲が、アルバムの日本語題にもなっている「ロンリー・ハート」である。この曲ではプロデューサーのトレヴァー・ホーンの存在が大きく、彼の手によるサンプリングやリバーヴの処理が曲の持ち味に貢献している。この曲は、現在のところイエス唯一の全米Billboard Hot 100における1位獲得作品で、アルバムのヒットを牽引した。 また、ロジャー・ディーンによるイエスのロゴマークがなくなり、簡素なアルバム・ジャケットになっている。
日本に於いては、1曲目の「ロンリー・ハート」が、日産・バサラ、三洋電機(パナソニック)eneloop、UCC上島珈琲「クリア」に使われ、最近ではジャン・レノと妻夫木聡、水川あさみがドラえもんの登場人物に扮するトヨタ・ノアにも使われるようになった。また2012年に放送されたテレビアニメ、ジョジョの奇妙な冒険の一部の回のBGMで、ロンリー・ハートと似たようなサウンドが使われている。
プロデューサーであるTrevor Hornによるサンプラー(たとえば、楽曲「Owner Of Lonely Heart(ロンリー・ハート)」の冒頭部のオーケストラヒット)などの最新技術の導入や、たとえば、The Policeなど当時イギリスで隆盛したニュー・ウェーブ系を彷彿とさせるギター・アンサンブルが盛り込まれたことと、YESのアンサンブルの特徴の一翼を担ったギタリスト:Steve Howeの代わりに、Trevor Rabinがギターを担当することで、デジタル・ロックを感じさせるスタリッシュでソリッドなアンサンブルな構成となっている。
YES、Trevor Horn、Trevor Rabinの三者が均衡し高水準の融合が生まれ、プログレと云うジャンルを超越し、1980年代のロック名盤ともなるアルバムが生まれたと言える。